QR コードの歴史 - 自動車部品の管理から世界標準へ
バーコードの限界から生まれた
1990 年代初頭、トヨタ自動車の生産ラインでは、部品管理にバーコードが使われていました。しかし、バーコードは格納できる情報量が少なく、 1 つの部品に複数のバーコードを貼る必要がありました。 1 つのバーコードで扱えるのはわずか 20 桁程度の数字で、読み取りにも時間がかかり、生産効率のボトルネックになっていました。開発期間はわずか約 2 年。現在では 200 か国以上で利用され、 1 日あたりのスキャン回数は世界全体で数十億回に達するとも言われています
デンソー (現デンソーウェーブ) の開発チームは、「もっと多くの情報を、もっと速く読み取れるコード」を目指して開発に着手しました。中心メンバーの原昌宏氏は、昼休みに囲碁を打っていたときに、碁盤の目のような二次元配列のアイデアを思いついたと語っています。
1994 年 - QR コードの誕生
1994 年、デンソーは QR コード (Quick Response Code) を発表しました。「Quick Response (素早い応答)」の名前のとおり、高速読み取りを最大の特徴としています。バーコードの約 10 倍の速度で読み取れ、格納できるデータ量も数十倍から数百倍に増えました。
当初は自動車部品の管理に使われていましたが、デンソーウェーブは QR コードの特許権を行使しない方針を決定しました。この決断が、 QR コードが世界中に広がる最大の要因となりました。
2000 年代 - 日本での普及
2002 年に QR コード読み取り機能を搭載した携帯電話が登場し、一般消費者にも QR コードが身近になりました。雑誌の広告、商品パッケージ、名刺など、さまざまな場所に QR コードが印刷されるようになります。
2004 年には ISO/IEC 18004 として国際規格に採択され、日本発の技術が世界標準として認められました。しかし、この時点では海外での普及はまだ限定的でした。
開発の背景にあった現場の課題
QR コードが生まれた背景には、製造現場の切実な事情がありました。一次元のバーコードは一方向にしか情報を持てず、扱える文字数も限られています。部品の種類が増えるにつれ、一つの箱に何枚ものバーコードを貼る必要が生じ、読み取りの手間が現場の負担になっていました。この問題を解決するため、縦と横の両方向に情報を持たせ、一度の読み取りで多くのデータを扱える仕組みが求められました。現場の困りごとを起点に、実用性を最優先して設計された点が、後の普及につながっていきます。
高速読み取りを支えた切り出しシンボル
QR コードの大きな特徴は、どの向きからでも素早く読み取れることです。これを実現しているのが、コードの三つの角に配置された四角い目印です。読み取り機はまずこの目印を見つけ、そこからコードの位置と向きを瞬時に割り出します。この目印の比率は、印刷物の中で偶然同じ模様が現れにくいように工夫されており、背景の文字や絵柄と取り違えることなく、コードだけを正確に捉えられます。素早く確実に読み取れる性質が、流れ作業の現場で重宝され、技術の価値を決定づけました。
スマートフォンが変えた使われ方
QR コードの使われ方を大きく変えたのが、カメラと通信機能を備えたスマートフォンの普及です。かつては専用の読み取り機が必要でしたが、誰もが手元の端末でその場で読み取れるようになりました。これにより、工場や物流の管理という当初の用途を超えて、決済、案内表示、認証、商品情報の提供など、日常のあらゆる場面に活躍の場が広がりました。技術そのものは大きく変わっていませんが、読み取る道具が身近になったことで、人と情報をつなぐ入り口としての価値が一気に高まったのです。
2010 年代以降 - 世界的な普及
2010 年代に入ると、スマートフォンの普及とともに QR コードの利用が世界中で加速しました。中国では WeChat Pay と Alipay が QR コード決済を爆発的に普及させ、インドでも UPI を通じて QR コード決済が広がりました。
2017 年に Apple が iOS 11 の標準カメラに QR コード読み取り機能を搭載したことで、専用アプリなしでスキャンできるようになり、欧米での普及にも弾みがつきました。 2020 年のコロナ禍では、非接触のニーズからレストランのメニューやワクチン接種証明書に QR コードが採用され、 200 か国以上で利用され、世界中の日常生活に完全に定着しました。
30 年で世界を変えた QR コードの歴史は、技術のオープン化がイノベーションを加速させた好例です。QR コードの誕生秘話を綴った書籍では、開発者の原昌宏氏の視点から、技術が社会に浸透するまでの道のりが描かれています。